2011/10/16

牛の鈴音 [워낭소리 英語名:Old Partner]













ウィスキーを呑みながら
韓国ドキュメンタリー映画
「牛の鈴音」(워낭소리 英語名:Old Partner )を観た。

泣き虫の私はいつものように泣いてしまった。
酒が泣かせるのでもなく、歳が泣かせるのでもなく
映し出されたヒトのその頑固さと暖かさに、
そしてそのヒトを美しく捉えた製作者達に
泣かされたのだと最近は想うようにしている。


「牛の鈴音」というドキュメンタリー映画は
80歳に近い老夫婦と共に30年間も働いて来た老牛の話である。
通常、牛の寿命は15年〜20年と言われている。
79歳になる農夫のチェ爺さんはその牛と毎日働き、
9人の子ども達を立派に育て上げた。

爺さんは「牛が食べる草が毒になるから」と
農薬をかたくなに拒む。
そのために稲の収穫は少なく、
野菜もすぐに虫に食べられてしまう。
80歳近い妻の老婆には、草取りも重労働だ。
こんなに歳を取っても苦労ばかりが続くと老婆は嘆く。
チェ爺さんは、少年時代の医療ミスで
不自由になった右脚を引きずりながら、
牛に与える草を刈り、背負子(しょいこ)に山のように積み、
両手の杖で身体を支え、よろけながら立ちあがり、
ゆっくりと農道を歩き、家路につく。

老いた牛に鞭を打ちながら
田植え前の水田の地ならしをするチェ爺さんの隣では、
トラクターに乗った若い農夫が、スイスイと水田を耕していく。
また田植機で次々と苗が植えられていく光景の横で、
チェ爺さんと老婆は泥の中を這うようにして
1本、1本、苗を植えていく。
秋になれば田んぼに膝まずきながら
1株1株 鎌で稲刈りをするチェ爺さんの田んぼの隣で
コンバインによってあっと言う間に稲が刈り取られていく。

「効率」と「非効率」のコントラストの中で
チェ爺さんのヒトとしての、生き方としての
こだわりと葛藤が映し出されて行く。


ヒト、動物、植物・・。
すべての命にはその過程の中に
二つのクライマックスがある。
それは「生まれ来る」と「死に行く」ことだ。

このドキュメンタリーでは
その二つのクライマックスの内で
「死に行く」というクライマックスが描かれている。
しかしながら「死」は一見、哀しみの象徴でもあるが
決してそれだけに留まらない。

どんな命にも必ず「死」というクライマックスは訪れる。
「死」そのものの哀しみよりも
「死」に至るまでの瞬間の連結をゆっくりと想い浮かべれば
「死」は哀しいものだけではなく、
「生」における充実を物語る。


「死に行く」というクライマックスにおいて
そのような「生」における充実を物語るドキュメンタリーに
私は「頑固さと暖かさ」を感じて泣いた。

ハッピーエンドが好きで
一見哀しい物語を観たくないというヒトには
つまらない映画かもしれないが
ハッピーエンドな物語、映画しか観ないヒト、
そのような存在は私にとってはつまらない。










韓国にて2008年に製作され、
日本にて2009年12月に公開された
ドキュメンタリー映画「牛の鈴音」
(워낭소리 英語名:Old Partner )は
第13回プサン国際映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞、
第34回ソウル・インディペンデント映画祭 観客賞、
第16回カナダ国際ドキュメンタリー映画祭 アーティスト賞
第7回シルバードックスドキュメンタリー映画祭 シネマテックビジョン賞
その他を受賞し、韓国で観客動員数累計300万人という
大ヒットを飛ばしたインディペンデント映画初の興行成績第1位、
歴代最高収益率を誇るドキュメンタリー映画だ。


製作スタッフ

監督・脚本・編集: イ・チュンニョル
製作: スタジオ・ヌリンボ
プロデューサー: コー・ヨンジェ
撮影: チ・ジェウ
音楽: ホ・フン / ミン・ユソン













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